スポーツ診療

野球をしている方

野球をしている方

● 投球障害

野球の障害で最も多い投球障害

野球の障害の多くは投球動作によって生ずる障害であり、発生箇所は肩甲骨を含めた上肢に集中しています。具体的にはおもに肩、肘の関節に発生しており、その障害の程度によっては手術を必要とするものも少なくありません。


投球動作によって生じる肩関節の障害を「野球肩」・「野球肘」といいます。

● 投球障害が起こる原因

投球障害の原因は運動連鎖の波綻連続投球や投球数の増加によって肩、肘の一定の部分が繰り返しストレスを受けることで生じる疲労骨折や筋、靭帯の損傷と考えられています。投球障害の訴えは違和感、不安感などから投球できないほどの痛みまで色々ありますが、おもな症状は腱板に関するものと関節唇に関するものに分かれます。

● 成長期の子供に多く見られる投球障害

投球障害

投球による障害は子供、とくに成長期の子供に多く見られます。

成長期には骨端線の障害が多く、小中学生時代に負った障害(特に肘の障害)が潜んでいる可能性があります。


潜んでいた肘の障害は、高校でボールが軟球から硬球に変わってプレーを始めることで肩、肘にかかる負担が急に大きくなるため表面化しやすいと考えられます。また肘障害の合併による肩の障害が起こる頻度も増える可能性があります。

● 野球の障害:部位別比率

1位 肩関節 39.9%

2位 肘関節 23.7%

3位 腰部  8.2%

4位 膝関節 7.2%

5位 手関節 2.4%

● 肩の障害

● 上腕骨近位骨端線離開

肩甲上腕関節を構成する上腕骨の骨端線(成長線)が離開(離れてしまうこと)する障害です。10~15歳の成長期では、骨の成長がまだ終わっていない為、程度をこえた投げ込みなどによって発生します。投球後に痛みが残る場合があり、「リトルリーグショルダー」とも呼ばれます。

● 肩峰下インピンジメント症候群

肩峰の下面と腱板の間で、肩甲骨が上方へ上がる動きや肩甲上腕関節で上腕骨の軸を中心にした回転運動による衝突(インピンジメント)によって発生する障害です。症状がひどくなると腱板炎、腱板断裂といった悪い段階へ移っていきます。肩関節が緩くても肩甲骨の周りの筋肉が硬い場合でも、肩峰下インピンジメントを生じやすくなります。したがって肩甲骨周囲筋の柔軟性はとくに重要です。

● 腱板損傷

肩関節と腱板(とくに棘上筋、棘下筋)が上方で衝突することで生じる障害です。

程度をこえた投げ込みなどによる投球動作の繰り返しによって発生します。

● スラップ病変

関節唇の前上方に生じる障害で関節唇周辺に引っ張られる力と上腕二頭筋長頭腱に交差する力が加わることで生じる障害です。投手によく発生しますが、なかでも全力投球タイプの投手に多く見られます。

● ベネット病変

程度をこえた投球動作の繰り返しによって上腕三頭筋長頭腱に張力が働き肩関節後方の関節包や関節唇に引っ張られる力が働いて骨が変形してしまう障害です。この骨の変形(骨棘形成)が投球障害の原因になります。

● 肩甲上神経障害

肩甲上神経が絞扼(締め付けられること)される障害です。神経が締め付けられる為、痛み、シビレ感があるまま、投球を続けると棘上筋、棘下筋に麻痺が生じることがあります。

● 肘の障害

● 野球肘

野球肘

ボールを投げようとすると、肘関節にどのような力が加わるでしょうか?

肘の内側には引っ張る力が、外側には圧迫する力が働きます。子供の肘関節は、投球によるストレスが繰り返し加わることにより、内側では筋肉や靭帯の付着している軟骨・骨・靭帯自体が引き裂かれてしまうケガが、外側では関節内の軟骨や骨が壊れてしまうケガが発生します。

これが『野球肘』です。

● 症状と治療

押した時の痛み(圧痛)・運動時(投球時)の痛み・運動後(投球後)の痛みなどがあります。痛みの治療としては、レーザー治療・SSP治療・はり治療などの理学療法と、安静・固定が必要です。約3週間が経過したら、症状を診ながらフォームチェックをし、再発しないよう痛みの出ない投球方法を指導します。これが重要なポイントになります。

● 離断性骨軟骨炎

投球動作の繰り返しの負荷によって、骨軟骨損傷を起こした障害です。10~15歳の成長期には肘関節に成長軟骨があり、外側内側に骨端線(成長線)があります。骨端の関節軟骨は引っ張られる力や強い圧迫や引きちぎられるような力に対して弱く、投球が多すぎるとこの障害を生じやすくなります。

● 内上顆骨端線離開

手関節を手前に曲げた時や物を強く握ったとき、肘関節の内側には強い牽引力と外反力によって肘の内側の骨がはがれてしまう障害です。リトルリーグが肘と呼ばれ当院でももっとも多い症例です。

● 内側側副靭帯損傷

過度に投球動作を繰り返したり、正しく安定したフォームで投げていなかったりすることにより、肘関節には外反ストレスが繰り返しかかります。

その結果、内側側副靭帯の牽引力が作用して、内側側副靭帯の付着部で剥離骨折を起こすこともあります。

● 回内・屈筋群筋筋膜炎 上腕骨内膜炎

肘の内側の筋肉が投げすぎると筋筋膜に炎症や変性による小さな断裂が生じて、肘の内側に痛みが出る障害です。

● 肘頭骨端線離開

投球動作における上腕三頭筋の収縮の繰り返しにより、肘頭骨端線部分に離開を生じる障害です。

成長期の子供に多く発生します。

● 肘頭骨端炎

投球動作で肘頭の上腕三頭筋の付着部に痛みと同じ箇所に圧痛が見られます。程度を越えた投球の繰り返しによって小さな骨折や分離などが引き起こされるのが原因です。

● 野球肘・野球肩の診察の流れ

骨に異常がある場合と、ない場合で診療の流れが変わります。

骨に異常がある場合
骨に異常が無い場合

● フォームチェック

長い距離、短い距離で投げるのをチェックする。

投げる時、上肢の動きは大きく変わらないが、短い距離から長い距離に変わるにつれて下半身の動きを大きくする。

右投手の場合、左足が着地した時に股関節が回旋しないように注意する。

回旋してしまうと右足にためたエネルギーを使わず、上半身のみで投げるようになってしまう。→肩、肘損傷

右腕をトップの位置にする時、力が入らないようにする。

体の大きな子は同学生の子に比べ男性ホルモンの出が早く、筋肉が大きくなりやすい。

柔軟性のない子は、筋肉が大きいため速い球を上半身のみで投げる形になりやすい。→肩、肘損傷

● 正しい投球フォーム

正しい投球フォーム

・頭の位置:体幹軸と同一に、前方にズレがないように。

・肩:肘(スカプラライン)が崩れないように、同じ高さに。両肩はに平行、腰で投げるような感じで。

・タメ:壁を作る。

・あくまでも体幹:スナップを意識させないように遠投が基本。(上へ向かって投げる)

● 投球フォームについて

● ワインドアップ期1

・バランスの良い片脚立位

・自分の意志で動き始める

● ワインドアップ期2

自宅でもできるチェック方法

● 初期コッキング相

並進運動から回転運動へ

・体重移動(並進運動)で作った力を体幹の捻り(回転運動)に変換する


前足が着地するまで骨盤の開きをできるだけ抑える

→骨盤の回転運動の加速距離が長くなる


・膝が止まる

・膝の上に体重移動しながら

・骨盤が股関節を中心に回転する

● 加速相(ボールリリース)

左肩から右肘までほぼ一直線


体軸が左に傾いているのでオーバースロー

この時の回転軸は左股関節と左肩を結ぶ線


体軸の傾きが小さい分リリースの位置が低くなる

スリークウォーター、サイドスローでも肩から肘のラインは一直線

● フォロースルー期

● 肘・肩のストレッチ法

肩と肘のストレッチ法をご紹介いたします。ファイルをクリックしてご覧ください。

● 野球肘・野球肩セルフチェック

野球肘・野球肩のセルフチェック法を掲載しました。ファイルをクリックしてご覧ください。

● イップスについて

● イップスはどんな症状なの

1. 震え 2. ひきつけ 3. 硬直 4. 苛立ち

・勝手に体が震えてしまう

・思うように体が動かない

・動きが固まってしまう

・上手くプレイ出来ないことへの苛立ち

● イップスの特徴

1.  画像所見はない

2. 失敗への不安が高まり起こることが多い

3. 認めたくない、知られたくない(「肩が痛い」を隠すのとは明らかに異なる背景)

4. 真面目で完璧主義思考の人に多い

5. 前腕と手部に集中

● どんな競技で起こるのか

・野球・テニス・ゴルフ・卓球・陸上・ダーツなど

・楽器演奏・文字を書くなど・・スポーツだけではない

● イップスの定義

「自動化した動作の遂行障害」…何も考えずに出来ていた動作が出来なくなってしまうこと 。

それでは、どんなきっかけでイップスは起こるのか?

・人間関係・失敗経験・大舞台での緊張・ブランク明け・失敗できないという意識

● イップスの選手増加の背景

イップスに悩む選手がなぜここまで増加したのか?

日本社会がもつイップスに対するスティグマ


#スティグマとは、 社会、集団などが、個人に押し付けるネガティブなレッテルのようなもの 

筋肉や骨の損傷等に罹患した選手に対して、チームや社会が押し付けるレッテルと、イップスに罹患した選手に対してのそれは、明らかに質が異なるものであり、そこには社会のイップスに対するスティグマが存在すると考えられる。


● イップスの治療

・イップスの原因や状況を整理する

・カウンセリングシートなどを用いて、状況を整理する。

・動画撮影などで自分の動きを把握する。

・セルフエフィカシーを高める。

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